2010年3月23日火曜日

運命じゃない人

アフタースクールの内田けんじ劇場初監督作品。カンヌ映画祭で4つの賞を受賞。
ある一晩の出来事が、5人の登場人物別々の視点で、時間を行ったり来たりしながら描かれていく。婚約者と別れたばかりの女。帰る家もなくボストンバック片手にまちをさまよう中1軒のレストランに足を踏み入れる。この偶然が5人の人間をつなぎあわせていく。女に一緒に食事しようと誘う胡散臭い男。その向かいに座っている平凡なサラリーマン。そのサラリーマンを振った結婚詐欺師の女。女が鴨にしようとしているやくざの組長。
5人の行動が複雑に絡み合いながら、物語は進行しある結末に向かっていく。ちょっとでもタイミングが違えば、別の結末があったのではないかと想像させるつくりが随所にあり、プロットの妙に感心する。伊坂幸太郎の小説にも似た軽快さがある。物語の核となる平凡なサラリーマン役が本当にどこにでもいる様な風貌で、演技も日常の延長のような素朴さがあり(特段うまくはない)、全体の空気を独特なゆるいものにしている。
★3.0

クリミナル

ちんけな詐欺師二人がひょんなことでであい、協力して偽造通貨をさばく闇取り引きで一山あてようと企む。
主犯の男は親の財産をめぐって、妹との間に訴訟問題をかかえている。で、この妹はホテルのコンシェルジュで、そのホテルが通貨引き渡しの舞台。
観ている人はこれらの要素が出来過ぎた設定であることに最後まで疑うことはないだろう。それだけ、テンポが良く、くせのある主役二人の演技にもひきこまれる。
終盤主犯の男が何も知らずに報酬の小切手を換金しようと、銀行へ。そこで、あっさりお縄ちょうだい。もう一人の犯人は、さっそうとその場から立ち去る。ここで、彼が相棒をはめたということを察するが、その後のシーンで仰天必至。監督はオーシャンズ13をつくった人で確かにあのような小気味良い雰囲気が漂っている。
2010.3.22 ★3.0

DOWN

ニューヨーク、マンハッタン。70基ものエレベーターが設置された地上100階建ての超高層ビル。
エレベーターが勝手に動き出し、死者が出るという事件が頻発する。
主人公は軍隊あがりのながされるように生きている男、消極的にエレベーターの点検を仕事にしている。そんな中当のビルオーナーから調査を依頼される。調査を進めるうちに過去におこった前任者の不審な自殺死に疑いを持つようになる。事件の裏側には過去に軍が関与していた極秘実験の闇が隠されていた。要するに人工知能のエレベーターが反乱をおこしたってやつ。主人公が過去に軍隊にいたことと秘密の実験が絡み合ってくると深みが増しただろうけど、そんな展開は全くなく、エレベーターにランチャーぶっぱなして終了。平凡。
2010.3.21  ★2.0

太陽がいっぱい

アランドロン主演の傑作ミステリー。配役マットデイモン、ジュードロウ、リプリーというタイトルでリメイクされている。
映画の基本構造はコロンボと同じで、殺しのシーンをみせておいて、追い詰められていく様を描く。と言ってもコロンボのような強烈なキャラクターのデカは登場せず、犯人の絶妙な虚偽の立ち回りに重点が置かれている。じわじわ巧みな話術と小さな物証をつなぎあわせて引き込む手法ではなく、完全犯罪の成立の様相が濃くなる最終シーンであっといわせるどんでん返し。幕引きは淡白でかっこいいし、アランドロンおしゃれ。
2010.3.21 ★3.0

コントロール

ウィレムデフォー、レイリオッタ、二大俳優共演の医療サスペンスもの。
物語はレイリオッタ演じる凶悪犯罪者が死刑執行されるシーンからはじまる。気がつくと彼は手足を拘束され、ベッドに縛り付けられている。自分は何故生きているのか。戸惑う彼に告げられるのは、選択の余地のない新薬の実験体としての道、それを断れば墓場が待つのみ。この新薬、人間に罪の意識を醸成するというもので、凶悪犯罪者である彼が被験者としてもってこいということ。
この薬は徐々に効く。世の中の全てに怒りを剥き出しにすることしかできなかった彼は、毎晩自分が殺してきた者たちの夢にうなされ、抑えきれない罪悪感に支配される。それと共に心にも平穏を持ち始める。実験チームのリーダーであるウィレムデフォーは、この薬の効用を確信し、実験の第2ステップとして監視付き、GPSタグ付きで男を施設から解放する。
男は、仕事につき、職場の女とデーとしたり、相応に社会にとけこむ。しかし、過去に障害をおわせてしまった若者に謝罪にいくあたりから物語は急変。そして「●はただの●だった」という事実。
エピローグ、新薬の開発者だった男が妻と一緒に、心に傷を持った子どもたちのための施設にいるシーンがある。薬薬で解決しようとする世の中に対するアンチテーゼ、本当に大切なのは人との触れ合い、環境からかえなくてはならないことを訴えてくる。
2010.3.16★3.0

アフタースクール

大人達の放課後。大泉洋は母校の中学校教師役。こういう役ほんとにはまるなぁ。普通に演技しているんだろうけど、何か笑えてくるのは才能だよね。
この中学校教師の古くからの友人で一流企業につとめる男。彼は会社を休み、妊娠中の妻がいるにもかかわらず白昼堂々女と密会しているところを出し抜かれる。会社のイメージダウンを恐れた経営陣は、浮気の真相を知るため、怪しい闇商売に手を染めた一人の探偵を雇う。と同時に当の浮気男は失踪してしまう。探偵は、何とか捜査の糸口をつくろうと、中学校の同級生を装って彼の母校を訪ねる。そこにいたのが大泉洋演じる教師。人の良い彼は、探偵のペースにのまれ、失踪した男探しに巻き込まれていく。
このシンプルなストーリー構成を誰も疑うことはできない。丁寧に緻密に練り上げられた会話とプロットにミスリードされる。
終盤、教師の携帯電話に残る音声と履歴がばれるあたりから物語は一転し、探偵一人を残して登場人物の裏の役割が明らかになる。浮気男と教師はグル。失踪などせず教師の部屋おり、浮気相手だと思っていた女は教師の妹でおとり捜査にあてられた婦人警官。散りばめられた伏線をだどりながら、物語の真相を理解することになるが、この設定に現実味が感じられないため、今ひとつしっくりこない。観終わった後「閉ざされた森」のオチを思い出したが、あれはある意味軍隊という特殊な環境設定がリアリティを担保していた。自然と自分の日常に重ねてしまう本作はその点から無理があるのかも。とはいってもそれなりにどんでん返しは気持ちいいし、みんな演技もいいし、主題歌は札幌が誇るロックバンド・monobright
★3.0

アナトミー

ドイツ映画。本国では絶賛され幾つかの賞もとっているらしいが、かなりマイナー。タイトルのアナトミー=解剖学の通り、病院を舞台としたメディカル系サイコホラー。
大学医学部で優秀な成績をおさめた主人公が研修医としてかよう大病院の裏には、実は人間を生きたまま解剖するいかれた秘密結社がひそんでいた。主人公は一件の不審な死をたどっていく中でこのサイコ集団の存在に気づきはじめ、殺しのターゲットとされていく。
主人公の唯一の味方として登場する男が実は研修医ではなく、秘密結社を題材に論文を書いている学生だったという設定。ちょっと無理ない?
2010.3.22 ★2.5

2010年3月10日水曜日

カタコンベ

パリの地下に実在するという広大な地下墓地カタコンベ。過去に何百万体もの死体が折り重なり、彼らは今も怨霊となり迷宮を彷徨う。こんなスリリングなシチュエーションを若者たちが黙って放っておくわけがなく、毎晩無許可のクラブ会場に。
主人公は心の病をかかえた若い女。精神療養をかねて姉のもとをたずねてアメリカからパリにやってくる。
姉はこの地下墓地クラブの常連で、妹に断りなく、パーティに連れ出す。当然、場の空気に馴染めるはずがなく、ホラー映画のお約束、暗い通路で単独行動。そして、迷う。暗闇で一人ぼっちという恐怖の舞台を整えた後は、都市伝説にある山羊のかぶり物をした得体の知れない大男を登場させる。散々追いかけまわされ、終盤、主人公もつるはしで反撃。そこでふと我にかえる。つるはしでぶん殴ったのは山羊男ではなく、姉の友人だった。全て姉のイタズラだったことを理解する。姉は激怒する、イタズラなのに人殺してんじゃねーよと。主人公、逆ギレ。イタズラに参加した仲間、全員滅多殺し。終了。
2010.3.10  ★2.0

2010年3月1日月曜日

レディ・イン・ザ・ウォーター

シックスセンス、ヴィレッジ、サインのM.ナイト・シャマラン監督作品。彼の最も売れなかった作品ということもうなずける内容。
シックスセンスのオチが強すぎたため、他の作品にもミステリー・どんでん返しを期待してしまい拍子抜けしてしまう。多くのレビュアーは、監督は深いテーマを持って純粋な人間ドラマを描こうとしているので先入観を持たずに作品を観るべきと主張しているが、やっぱり意味不明だったりエンターテイメント性にかけるからピンとこない。
1軒のアパートの敷地内に自らを水の精だと名乗る女・ストーリーが突如現れる。女は、ひどく衰弱しており、自分の命を救うには、おとぎ話に出てくる役割を与えられた特定の人間の力を集めなくてはならないと言う。それが、このアパート内にいると。ストーリー=物語を紡ぐには、語り部、翻訳者、そして物語を愛する人が必要なのだと。作中、頭でっかちの評論家だけが殺されてしまうのは、映画の本質を知らずに上辺だけで判断することに対する批判めいたものが含まれているのだろう。
それにしても深読みしなくてはならないわからない映画もどうかな。
2010.2.28 ★2.5


ZOO

乙一原作の短編集「ZOO」を映画化したもの。「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」「SO-far そ・ふぁー」「ZOO」「陽だまりの詩」5作品のコンピレーション映画。
5作品の中で「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」の二つはかなり印象的。
「カザリとヨーコ」は、性格の違う一卵性の双子の話、姉のヨーコ視点で描かれる。母親は、溌剌とした妹のカザリを盲目的に可愛がる一方でヨーコに虐待を繰り返している。風呂にも入れず、ろくな飯も食わせてもらえないヨーコは、当然学校でも相手にされず、妹のサガリからも執拗ないじめにあう。それでも、心を閉ざすことなく、一生懸命生きようとする。ある時、カザリは母親の部屋からCDを無断で持ち出そうとするがその際に大事な仕事道具であるPCを壊してしまう。ヨーコは、自分がカザリのかわりに母親に謝るために一日姿格好を入れ替えることを提案する。母親に怒られることを恐れたヨーコはすんなりこの提案を受け入れる。しかし、ヨーコはここに一つしこんでおいた。PCを壊したのを自分がやったようにみせる証拠をわざと残す。
ラスト、自宅に早く帰ったヨーコ(姿の入れ替わったカザリ)がマンションの上から落ちてくる。ぐしゃ。

「SEVEN ROOMS」は、一組の姉弟が何の前触れもなく堅く冷たい部屋に閉じこめられているシーンからはじまるソリッドシチュエーションサスペンス。部屋には一本の水路があり、よく見ると壁を抜けて右から左へ流れている。姉の命令で弟はこの水路に潜り、隣の状況をみにいく。そこには同じ様な個室に捉えられた女性達がいる。自分たちの部屋も含めてその数7つ(SEVEN ROOMS)。定期的に供給される食糧と水路に流れてくる死体。次第に姉弟は殺されるために生かされていることを理解する。
姉は自分が犠牲となり、チェーンソーを振りかざす犯人を自分と同じ部屋に閉じこめる。意外にも姉弟愛にほろっとくる。天才子役須賀健太の演技力すごい。原作では、姉がチェーンソー男に腕を切られながらも勝ち誇った笑みを浮かべるくだりがあるとか。
ところで乙一は押井守の娘の旦那らしい。
2010.2.28 ★3.0

パリ空港の人々

パスポートを含む全ての所持品を盗まれた男がパリのドゴール空港で拘留され、そのまま空港内トランジットゾーンで、同様に足止めをくらった癖のある面々と共同生活をはじめる。いかにもフランス映画っぽく特段盛り上がりもなく淡々と物語は進行。奥さんが必死になって夫を探しているのに、当の夫(主役の男)は、トランジット内にいるミステリアスな女性に恋心をみせたりして非常に胡散臭い。元ネタが同じスピールバーグ監督作品の「ターミナル」の方がずっとわかりやすく「クラコージア」連発するところ笑えるし、従業員との心の触れ合いにもほろっとくる。空港出て少年と二人で歩き出すのもなんかなぁ、ぱっとしません。
2010.2.27 ★2.5

サスペリア2

1が全く理解できなかったので躊躇したけど、2の方を大変評価されている人も多いので借りてみた。サイケな色調で繰り広げられる殺しの数々、テンションがつかみきれないプログレミュージック、基本的な構成は1とかわらないが、物語がミステリー仕立てで進行されるのでそれなりに楽しめる。最後に明かされる犯人も、十分にどんでん返ししているし、おばさんの演技もかなり逝っていてコワイ。その部分は十分にホラー。
2010.2.27 ★2.5